表向きだけだと、裏目に出る。インナーブランディング
インナーブランディングとは
ブランドに関わる全ての事業関係者の意識を統一する「インナーブランディング」
インナーブランディングとは、自社の商品やサービスが消費者に渡るまでのプロセスに関わる全てのヒトを対象に、企業理念や企業ブランドの価値、目指す姿の理解を促し、理想とする姿の実現に向けて意識を変化させる啓蒙活動のことを指しており、近年ではインナーブランディングを重要視する企業活動が年々と高まってきています。そして、「全てのヒト」には社員、アルバイト、パートタイマー、派遣社員など、自社スタッフはもちろんのこと、商品運搬に関わる輸送業や倉庫業、卸売店から小売店に至るまで、商品やサービスの提供に関わる全ての人が含まれています。顧客向けのアウターブランディングやプロモーションだけでは共有しきれない、企業理念やビジョンなどの形のない概念を共有することで事業関係者の意識変化を促し、言動やサービスを改善することでブランドの方向性と合致させていきます。
「言ってること」と「やってること」の差異を限りなく0にするインナーブランディング
お客様や株主をはじめとしたステークホルダーに対し発信している「当社はこのような会社です」という「企業としての約束」と、「社員の言動」が一致しない…。このような状況に心当たりは無いでしょうか。経営陣がいかに素晴らしい「企業としての約束」や「ビジョン」を提唱しても、肝心のスタッフや事業関係者の言動が伴わなければ「企業のブランドが実現していない」状態に他ならず、これでは単なる理想論で終わってしまいます。 インナーブランディングは、社員や事業関係者の意識改善にはじまり、それに伴う言動の変化が実現して初めて成功したと言えることから、取り組みの中でも最も難しい施策とされています。また、一過性の施策では継続的な実施が容易でないことから、企業文化・風土として根付くための継続的な取り組みが不可欠とされています。 インナーブランディングにおいて最も重要なのは、企業・商品を好きになってもらうことに他なりません。そのためには、仕事の仕事になってしまうような負荷を押し付ける施策でなく、社員や事業関係者一丸となってブランドを盛り立てたくなるような、能動的に参加したくなる取り組みが必要不可欠です。
一人ひとりの意識と行動が企業のブランドを体現する
「ハイブランド」と言われる高級ブランドは、なぜハイブランドでいられるのか。それは商品の品質が高いだけではありません。従業員ひとり一人がそのブランドらしさを理解・共感し、電話対応から接客、細かな所作に至るまで徹底した意識改革と教育により実現できています。また、ブランドを体現する従業員ひとり一人が、そのブランドのファンになってくれるよう、評価・表彰・社内イベントに至るまで細やかな設計がなされています。 一方、ブランド=ハイブランドではなく、低価格を打ち出す大手量販店や、100円ショップ、さらには、港町を想起させる大衆居酒屋なども立派なブランドです。コンセプトによっては、あえてぞんざいな対応を売りにするブランドも存在します。ハイブランドはハイブランドらしく、ローコストブランドはローコストブランドらしく、そのブランドらしさを従業員や事業関係者ひとり一人が理解し、意識することで言動を改善していくことが大切です。
インナーブランディングにおける企業の主な課題
企業が抱える人に関わる主な課題
社員が一体となり、強いブランドを体現していくためには、企業内に潜む「人にまつわる課題」を明確化し、中長期的かつ継続的な取り組みを計画的に行い、サービスや言動を改善して行かなければなりません。企業が抱える課題は多岐に渡りますが、「人にまつわる課題」の代表例には以下のような項目が挙げられます。
●自社のブランドミッション、ブランドバリューなどが社内に浸透していない
●将来のビジョンが浸透しきれておらず、社員のモチベーションが高まらない
●経営統合や合併など、企業環境の変化に伴い、理念の再浸透が必要
●品質を高めていくために、社員のモチベーション向上が不可欠
●退職者が相次ぎ、社員の意思統一を再構築する必要がある
●IPOに伴い、コンプライアンス遵守に向けた意思統一が急務
結局は、その企業・商品が好きかで決まる
企業のステージや組織のコンディションにより異なりますが、インナーブランディングにおけるこれらの課題の解決施策は大きく2点あげられます。ひとつは人間関係、もうひとつは制度改革です。インナーブランディングで留意しなければならないのは、施策の対象がダイレクトに社員(人)であることです。なんだかんだ言っても、人は感情で動きます。だからこそ大切なのは、「会社を好きになってもらうための取り組みを行うこと」。ブランドミッション、ブランドバリューなど、企業側が一方的に押し付けるのではなく、自然と理解・共感し、心から取り組める関係性を築くことが大切なのです。 従業員満足度が高まれば、サービスや言動の一つひとつが改善します。そのため、顧客満足度を高めるためには、従業員満足度を高めることが大切なのです。企業の内側から改革し、従業員が働いやすい環境を整えることで、企業ブランドや自社商品に愛着を持ってもらうこと。すなわち、会社を好きになってもらった結果、お客様へのサービスが向上し、顧客満足度を高めていくことがインナーブランディング最大の目的なのです。
人間関係を円滑にする、コミュニケーション改善に向けた施策例 | 制度改革に伴う、働き方改善例 |
●イベント実施における企画チームの発足と実施・運営 ●地域コミュニティへの参加に伴う社内コミュニケーション強化 ●社員旅行におけるコミュニケーション施策イベントの企画立案 ●映像/パンフレットなど社内ツール制作に伴うグループディスカッション ●パーティーや懇親会開催に伴うイベント企画の立案 |
●個々の事情に応じた働きやすい環境の導入(例:フレックス制度 など) ●新たな福利厚生の導入 ●教育・スキルアップ体制の充実・整備 ●正当な報酬や評価制度の導入 ●役職における役割の明確化 ●オフィス環境の整備 |
インナーブランディングに期待できる効果
企業価値と営業利益の最大化
従業員満足度を高め、そこに社員教育が伴うことでサービス・クオリティや言動が改善します。また、離職率が低減し、社内の一体感が生まれ、仕事へのモチベーションも向上します。そうした正のスパイラルを繰り返すことでお客様満足度も向上し、営業利益が向上していきます。インナーブランディングは、企業が行うべき本質的な施策であり、強い企業づくりに必要不可欠な施策なのです。直接的な利益を生み出す広告宣伝とは性質が異なり、短期間での成果を望むものではありませんが、インナーブランディングが成功し、企業/商品ブランドの言動が一致することではじめて、企業価値と営業利益を最大化できるのです。
インナーブランディングの対象 | 期待できる効果 | 求職者/学生への効果 |
●株主/役員/経営者 |
●自社に自信や誇りを持つ |
●他社との差別化 |
インナーブランディングにおける主な施策例
社員の本音を理解して、意識の共有から言動改善を目指す
中小企業のインナーブランディングでは、「成果物をつくる」というゴールを社員全員で共有し、そのプロセスの中で上席や社員同士のコミュニケーションから信頼関係を築くことが重要です。成果物を効率重視のチーム構成で制作するのではなく、コミュニケーションにより信頼関係を構築することを本来の目的として成果物を仕上げ、結果を全員で共有・理解・納得することで企業理解と愛社精神を深めていきます。
また、大手企業のインナーブランディングでは、ブランドが目指す理想像を明確な言葉やビジュアルで具現化し、全従業員が企業理念や行動指針を誤解なく理解し、サービスや言動に落とし込めるよう示唆することが肝要です。
●社員アンケート調査(Questionnaire Survey)
従業員満足度・モチベーション調査
インナーブランディングに向けた施策を実行するにあたり、まずは現状を理解することが大切です。経営層の思いと、従業員の思いのギャップを把握し、そのギャップを限りなくゼロにする施策を企画することこそ、機能するインナーブランディング施策に他なりません。社員アンケートでは主にWebサービスを活用した匿名でのクローズドアンケートを用いることから、従業員の本音を抽出しやすく、また部外者が介入することでそのハードルを下げ、客観的な視点で調査結果を検証することができます。
●ブランドメッセージ開発(Brand Message)
正しく、強く、より深く伝えるための言語化
企業理念や行動指針を、お客様や従業員などの事業関係者により深く伝えていくためのメッセージ開発には、ブランドステートメント(企業/ブランドの理念)、タグライン、ブランドプロミス(企業/ブランドの約束)、ブランドコンセプト(ブランド全体を貫く根本的な観点・考え方)、ブランドヒストリー(ブランドが培ってきた歴史を明文化したもの)などがあります。ブランドメッセージにはそれぞれの役割があり、求める効果も異なります。詳細は次項目でご紹介しています。
●クレドカード(Credo Card)
基本理念・行動理念・企業理念の浸透
基本理念・行動理念・企業理念を簡潔に記したポータブルサイズの従業員向けカード。多くは名刺サイズ程度で制作され、全社員に配布し、常に持ち歩かせることで、自社のあるべき姿を意識させることができます。また、朝礼など一日の始まりにクレドの唱和を行うことで、組織の一員としての自覚を芽生えさせると同時に、理念の浸透を図ることができます。 クレドの導入は、主体的に行動する人材育成にもつながるため、社員教育の一環として捉えらることができ、モチベーション向上に効果があるといわれています。
●ブランドブック(Brand Book)
ブランドの世界観を直感的に伝える
ブランドブックは主に従業員とブランドを共有するためのツールに用いられ、クレドが理念・方針などの言葉が主体なものに対し、写真やイラスト、コピーなどで直感的にブランドの世界観を共有するツールとして仕上げていきます。大切なのは、ブランドを理解・共感し、従業員が自社ブランドに誇りを持つこと。ブランドブックを見た際、「こうなりたいと思えるブランドブック」を目指し、決して規則集にならないよう留意しなければなりません。
●ブランドムービー(Brand Movie)
ブランドの世界観を音と映像で伝える
ブランドの世界観をお客様や従業員に伝える際、文章を読み込んで各自が独自に理解するのでは、ありたいブランド像が正しく伝わるとは限りません。だからこそ、企業や作り手の「想い」をまっすぐ伝え、お客様や従業員とブランドの世界観を誤解なく直感的に伝えることができるブランドムービーを活用します。さらには、企業や作り手のインタビューを文章で伝えようとすると、どうしても長文になってしまうことから、伝えるのが容易ではありません。それらの課題を解決できるのがブランドムービーです。
●社内向けWebサイト(Inner Website)
全従業員で共有できる情報のプラットフォーム
オフィスや工場など、事業拠点が日本全国または世界各地などに点在する場合、全従業員が一同に集まり、取り組みや情報の共有を頻繁に行うのは容易ではありません。また、社内報やブランドブックなどの紙媒体を常に更新し、都度配布していくのは多大な時間とコストを要します。かといって、メールやチャットでの情報共有では、重要性の理解度が低く、インナーブランディングを浸透させていくのに困難を極めます。その点Webサイトでは、情報/情緒の双方とも共有が可能であり、また映像を掲載するなど、情報提供のプラットフォームとして、タイムリーな情報発信を行うことが可能なことから、中長期的な施策を要するインナーブランディングにおいて必要不可欠なメディアであると言えます。
インナーブランディングにおける「ブランドブック」の有用性
インナーブランディングの代表的な施策のひとつに「ブランドブック」の制作があげられます。 ブランドブックは、数ページのものから50ページを超えるようなものまで様々で、事業領域や業務内容、状況などにより必要な情報やその分量が異なるため、必ずしもページ数が多い方が良いと言う訳ではありません。ブランドブックはあくまでも社員と”理念や価値観を共有”し、ステークスホルダーに対するブランド価値を向上させるためのツールであり、行動基準を示すものに他なりません。大切なのは、“ブランドブックの内容を全社員が理解・共感し業務に取り込む”ことであり、その効果を高める工夫が制作時の重要なポイントとなってきます。完成したブランドブックを「読ませる」「押し付ける」のではなく、全社員が共有するという意識づけを行うことがブランド構築の第一歩だと言えます。
ブランド・メッセージの種類と役割
誤解なく、明確に、ブランドの姿勢を伝える
企業や商品のシンボルとしてビジュアル化されたロゴマークは、ブランドを視覚的に伝える役割を持ち、直感的な認知が容易なことから他社との差別化に不可欠な施策であることは言うまでもありません。それに対しブランドメッセージは、言葉として伝える役割を担い、誤解なく、明確に、ブランドの姿勢を伝えることができます。ブランド・メッセージには様々な種類とその役割があり、ひとつのブランドを多角的に伝えていくことが可能です。
メッセージ開発の種類とその役割 | |
ブランド・ステートメント |
ブランド・ステートメントとは、ブランドが理念や使命を消費者に向けて掲げるメッセージであり、企業が掲げる企業理念(コーポレート・ステートメント)に近いと言えます。企業理念は企業運営においての根本理念「どう在るべきか」を示すものですが、ブランド・ステートメントはブランドが消費者に提供する約束という意味合いが強くあります。企業そのものがブランドであるという観点に基づけば、企業理念とブランド・ステートメントが同じ位置付けであるとも言えます。 |
ブランド・プロミス |
ブランド・プロミスとは、ブランドが保証する品質・機能および価値であり、ブランド・プロミスとして具体的に明示するほか、ブランド・ステートメントに含む企業も多くあります。消費者や顧客(潜在的顧客も含む)が実際にブランド・プロミスとして理解し、感じ、受け取るのは、ブランドの持つ機能・感情など、さまざまなブランド要素からであることから、ブランド・プロミスはブランドを取り巻く環境の全てであるとも言えます。 |
ブランド・コンセプト |
ブランド・コンセプトは、ブランドの概念であり、ブランド全体を貫く根本的な観点・考え方を明文化したものです。そのブランドの本質とも言い換えることができ、ブランド・コンセプトを明確に定めることで初めて、企業が製品・サービスをブレることなく提供できると言えます。 |
ブランド・メッセージ |
ブランド・メッセージとは、明文化されたブランド・ステートメント、ブランド・プロミス、ブランド・コンセプト、ブランド・ミッション、ブランド・アイデンティティなどから構成される、ブランドが発信する全てのメッセージを包括した総称です。ブランド・スローガンもブランド・メッセージのひとつです。 |
ブランド・ヒストリー |
ブランド・ヒストリーとは、直訳するとブランドの物語となり、ブランドが培ってきた歴史を明文化したものです。消費者や顧客(潜在顧客も含む)がブランド・ロイヤルティを感じる要素として、いつ、どこで、どのようにして、なぜそのブランドが誕生したのかという歴史や背景は、とても重要なポイントであると言えます。企業の沿革は、企業の培ってきた歴史を伝え、信用を醸成するブランド・ヒストリーであるとも言えます |
ブランド・メッセージ開発3つのポイント
ブランド・メッセージは、理念やコンセプトなど、企業/商品の意思を具体的かつ端的に伝えることができる一方、伝え方によっては誤解を生み出す可能性も潜んでいると言えます。ブランドメッセージ開発時には、できるだけ短い文章で要点を捉え、誤解を与えることのないよう、まっすぐ、正しく、意思を伝える言葉でなければなりません。
POINT 01:明確であること
「最新の知見と技術を駆使し、サービスを通して社会に貢献し、地域社会に貢献する。」のような、曖昧かつ自社の強みや役割が明確でないメッセージをよく目にしますが、ブランド・メッセージにおいては、誰に、何を、どのように伝えたいのか、が明確であることが大切です。企業姿勢や商品コンセプトが明確に伝わって初めて、他社との違いを理解することができ、信頼感や安心感を得ることができるのです。ブランド・メッセージは、企業/商品価値をまっすぐ、正しく、そして強く、深く伝えられることから、明確であればあるほど、企業にとって大きなメリットが生じると言っても過言ではありません。
POINT 02:受け取る側の視点に立つこと
自社の思いを一方的に伝えるのでは、消費者や従業員などのターゲットに本質的な想いを伝えることはできません。一歩間違えれば、考え方の押し付けと捉えられることから、「伝え方」や「伝わり方」に注意が必要です。大切なのは、「何を言うか」と「どのように言うか」。そして、「どう伝えたか」ではなく、「どう伝わったか」が重要です。
POINT 03:イメージ想起できること
お客様や従業員がブランド・メッセージを受け取った際、何を想起するか、またブランド像を正しく想起できるかを念頭に、ブランド・メッセージ開発は行われなければなりません。メッセージを受ける側の視点に立ち、イメージ想起することが大切なのです。曖昧な表現はできる限り排除し、明確な言葉で正しく、強く、まっすぐ、深く伝えることが大切です。